わたしのHygge #02

高校を卒業してしばらく経つまで、我が家にはお風呂がなかった。
正確にいうなら、町内にあるほとんどの家がそうだった。
温泉場という土地柄、町内風呂(町内ごとに管理する銭湯)があったから
それぞれの家に風呂をつくる必要がなかったのだ。


夜10時を過ぎると、管理人のおじさんが扉を閉めてしまう。
時間を逆算して動かないと観たいテレビ番組には間に合わない。
お風呂は入るというより「行ってくる」もの。
「家にお風呂があればいいのに」とぼやいた日は数知れず。
焼きたての鯵の干物も毎日の温泉も、ただそこにある日常だった。


石鹸やシャンプーの入ったバケツを鳴らしながら、星を見上げた帰り道。
芯まで温まった体には冬の風さえ心地よかった。


洗い場のないユニットバスを水浸しにしない方法も
真湯だとすぐに体が冷えてしまうことも、大人になるまで知らなかった。
風呂掃除と縁がなかったことも含めて、それはしあわせだったのかもしれない。


過ぎた日々を嘆いても仕方がないので
いまは家風呂を楽しむことにしている。
町内風呂のように湯量はなみなみ、たっぷりと。
湯の温度は、40度よりちょい熱め。
夜はもちろん、陽を浴びながらの朝 or 昼風呂も乙なもの。


あふれる湯なんぞ気にせずざっぱーんと肩までつかったら
湯船の縁に頭をあずけ、ゆらりゆらりと体を揺らす。
いろんなものから解き放たれて、ふわぁっと軽くなる心地よさ。
事実、体の重さは湯船の中で10分の1ほどになるという。


ここでいい仕事をしてくれるのが入浴剤。
温泉とはいかないけれど、やはり真湯とは段違い。


炭酸の「きき湯 ファインヒート」「BARTH」は疲労回復にぴったり。
入浴剤マニアの知人は、疲れが溜まると「きき湯」を1本丸ごと使う。
ブクブクと音が響くほどの炭酸が極楽だと熱弁するけれど、私にはまだ試す度胸がない。


アロマ好きならヴェレダのバスミルクシリーズ
メルヴィータの「リラクセサンス バスオイル」
リレイの「ALL YOUR OIL」は、バスオイルとしてはもちろん
クレンジングやヘア&ボディオイルとしても使える1本。
もこもこの泡が楽しいエコストアの「バブルバス」は子どもと一緒でも楽しい。


「湯屋と床屋は浮世の社交場」とはよくいったもので
旅先で銭湯へ行くと、その土地を肌で感じられる気がする。
いまは家の湯船に浮かびつつ、いつかの旅の計画を立てている。



『Hygge あたみらへん』編集室 国分美由紀

編集者、ライター。熱海で生まれ育ち、現在は東京と熱海をいったりきたり。  
話をきくのが好き。人見知りだが、たいてい信じてもらえない。にんじんが苦手。

Hygge-あたみらへん-

〝HYGGE・ヒュッゲ〟とはデンマーク語で 「人と人とのふれあいから生まれる、温かな居心地のいい雰囲気」 を意味する、他の国の言語では置き換えられない言葉。 そんな居心地いい何かを探求しながら、 あたみらへん(熱海、伊豆、湯河原、小田原、函南、沼津、三島etc...)の ヒュッゲな人やモノ、コト、暮らしを提案・紹介していくzine。 hyggeatami.info

0コメント

  • 1000 / 1000