わたしのHygge #12
「積ん読」という言葉がある。
辞書によれば「書物を買っても積み重ねておくだけで、少しも読まないこと」。
心当たりも身に覚えも十二分にあるけれど、それでも私は言いたい。
「少しも読まない」のではなく、「そのときを待っている」のだと。
あれは2020年の緊急事態宣言下。
誰に会うこともなく、猫と家にこもる日々。
なにをしようかと考えてひらめいた。そうだ、積んでおいた本があるじゃないか。
コツコツと積み上げてきた過去の自分に感謝する一方で、
本を読む時間をずいぶん後回しにしていたことにも気がついた。
ふと気になって、本棚とその周辺に積んである本をざっと数えてみたが、
100冊を超えたところでやめた。そう、数の問題ではない。
ちなみに、2018年に発行された書籍の数は71661点。
平均で考えると一日あたりおよそ196冊。想像してため息が出る。
私は、生きている間にいったい何冊の本と出会えるだろう。
しかも、ふいに出会った一冊にいつでも会えるとは限らない。
売り場の棚は新陳代謝を繰り返し、自分の興味関心も移り変わっていく。
手にとった本と自分の気持ちが重なるなんて、奇跡のような幸運だろう。
そう気づいてからは、面白そうだと思ったら迷わず買うことが増えた。
言葉を目で追いながら、ふいに誰かの声が響いてきたり
何年も経ってから、あの日の心の置きどころを見つけたりもする。
本は、いつかの自分へ渡すバトンのようなものだと思う。
だから私は誰かの本棚を眺めるのも好きだ。
そう遠くないうちに、本棚企画をやろうと密かに企んでいる。
『Hygge あたみらへん』編集室 国分美由紀
編集者、ライター。熱海で生まれ育ち、現在は東京と熱海をいったりきたり。さまざまな人や場所の来し方行く先をきくのが好き。人見知りだが、たいてい信じてもらえない。にんじんが苦手。
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